侘び寂びとは、日本人なら一度は聞いたことがある言葉だと思います。
意味を正確に説明しろと言われると難しいけれど、古びたものの美しさ、完全ではないものの味わい、静けさ、簡素さ、時間の経過が生む美、みたいなものだと、漠然とはわかるはずです。
今回紹介する Wabi Sabi という絵本は、その日本文化独特の考え方をアメリカの子供向けに紹介しようとした作品です。
ただし、日本人からすると、かなり「ん?」となる部分があります。
言わんとしていることはわかる。
日本文化を大事に扱おうとしている気持ちもわかる。
でも、詳細はちょっと違うのでは。
いや、だいぶ違うのでは。
そもそも猫の名前が Wabi Sabi なのか。
という感じです。
図書館で見つけたら、ぜひ皆さんにも一度読んで、厳しい目で吟味してほしい絵本です。
なんだろな☆アメリカがおすすめするアメリカ便利グッズカタログ@アマゾン
マガジン風にお楽しみいただけます。
Wabi Sabi なんか違うけどアメリカ人にはすごくウケている日本文化紹介の本 英語で読み聞かせ
こんにちはー。キョウコ@NandaroAmericaです。
アメリカで育つ子供に読んであげたい英語の絵本、児童書、定番本、そして日本文化や異文化理解に関わる本を紹介しています。
今回ご紹介する商品はこちらです。

この本は、日本文化の「侘び寂び」をテーマにした英語の絵本です。ビジュアルはかなり凝っていて、アメリカの読者にはとても魅力的に映ると思います。
ただ、日本人として読むと、いろいろ突っ込みたくなる本でもあります。
こちらもどうぞ
Are You An Echo?紹介|金子みすゞを英語で紹介する美しい絵本
英語で読み聞かせ Hachiko|忠犬ハチ公はアメリカでも知られている日本の名犬
Hi, Koo!紹介|英語で俳句に触れる子供向け絵本とアメリカ式Haikuの不思議
【アメリカ教育】在米日本人家庭のための無料日本語学習&読書サイト総まとめ【2025年版】
【アメリカ子育て】海外で子どもに日本語をどう渡すか|あいうえおかるたで始めた我が家の選択
買った動機
アメリカで時々見かける不思議な日本文化紹介本
アメリカでは時々、日本文化を紹介する絵本や児童書に出会います。
それ自体はとても嬉しいことです。
日本の文化に関心を持ってくれる。
子供向けに紹介してくれる。
図書館や本屋に置かれる。
アメリカで育つ子供が日本文化に触れるきっかけになる。
これはありがたいです。
でも、その一方で、日本人ではない人によって書かれ、日本人や専門家による監修が十分ではないのでは、と感じる本もあります。
以前紹介した俳句の本 Hi, Koo! もそうでした。
Hi, Koo!紹介|英語で俳句に触れる子供向け絵本とアメリカ式Haikuの不思議
今回の Wabi Sabi も、そうした「異文化を紹介しようとしているのはわかるけれど、日本人としてはモヤる」タイプの本です。アメリカン寿司しか知らない人が「これが日本の江戸前です」という感じ。違う、違うんだよ…。だれか教えてあげる人を雇うことや、専門家に監修してもらう予算はなかったのか?と思ってしまう残念なケース。
一昔前のハリウッドの映画でも日本ってこういう扱いですよね。クリエイターの情熱と日本好きはわかるんだけど、結局理解していない部分ばかり際立ってしまうという。
図書館で見つけたら読んでほしい本
正直に言うと、この本は「絶対に買うべき」とは言いません。
でも、図書館で見つけたらぜひ一度読んでみてほしいです。
そして、お子さんに読む前に、まず親御さんだけで読んでみてほしいです。
これは、子供に日本文化を紹介するための本というより、「アメリカで日本文化がどう紹介され、どう受け止められているのか」を体験するための本として興味深いです。お子さんに「これが侘び寂びだよ!」と正確に教えるための本ではありません、非常に複雑な気持ちになります。残念としか。
侘び寂びとは何か
日本人でも説明が難しい言葉
侘び寂びは、日本人でも説明が難しい言葉です。
静けさ。
簡素さ。
古びた美しさ。
不完全さの味わい。
時間の経過。
自然との調和。
余白。
控えめな美。
こうした要素が絡み合っていると思います。でも、日本で育つとよく知っている。一番に思い出すのが禅とか茶の湯とか、京都のお寺、日本庭園を眺めながら儚い話や説法、哲学的なお話を聞く、四季のうつろいを感じて寂しく思ったり、儚いなと感じたり。人間の歴史や物質社会や地球の歴史(笑)に漠然とした自然のルールやつながりを感じながらも、人間の小ささや命の儚さなどに思いを馳せる。そんな感じだと思います。
でも、それを子供向けに、しかも英語で説明するのはかなり難しいはずです。かなり感覚的な話題ですし、精神年齢がまだのところにいきなり話してわかってもらえるような話題ではありません。
だから、この本が挑戦していること自体はすごいと思います。
アメリカで受けやすい日本文化の一つ
侘び寂びという概念は、現代のアメリカではかなり受けやすいと思います。
ミニマリズム。
自然素材。
シンプルな暮らし。
不完全さを愛する。
古いものを大切にする。
禅っぽい雰囲気。
静かな美意識。
こうしたイメージと結びつきやすいからです。
ただし、アメリカで紹介される Wabi Sabi は、日本人が生活の中で感じる侘び寂びとは少し違うことが多いです。
かなり「おしゃれ概念」として輸出されている感じがあります。
この本のモヤるポイント
猫の名前が Wabi Sabi
まず、この本では猫の名前が Wabi Sabi です。
ここで、日本人としては最初に面食らいます。
侘び寂びは名詞ではありますが、ペットの名前につける感じの言葉ではないと思うのです。
犬に「二郎系」とかつけないでしょう。
「二郎」は名前としてあり得るかもしれない。でも「二郎系」は概念です。
猫に「ミッドセンチュリー」とか「アールヌーボー」とか「超ひも理論」と名付けるような、ちょっと変わった感じがあります。
もちろん、英語圏の人からすると Wabi Sabi という音がかわいく響くのかもしれません。
でも、日本人としては、
え、猫の名前が侘び寂び?
となるわけです。
冒頭から、理解度に少し不安を感じてしまいます。
日本文化を愛しているのは伝わる
ただし、この本が日本文化を馬鹿にしているとか、雑に扱いたいという意図で作られているとは感じません。
むしろ、作者は日本文化を魅力的なものとして受け止め、それを子供向けに紹介しようとしているのだと思います。
そこは伝わります。
でも、だからこそ、余計にモヤるのです。
愛しているのはわかる。
広めたいのもわかる。
でも、理解が浅いのでは。
そこ、もう少し確認できなかったのか。
という気持ちになります。
異文化紹介の難しさ
オープンだけれど浅いアメリカ
アメリカは、異文化を取り入れることにとてもオープンです。
日本食、日本語、日本の美意識、アニメ、漫画、禅、侘び寂び、抹茶、和牛、盆栽、折り紙など、いろいろなものがアメリカで紹介されています。
でも、取り入れ方が浅いことも多いです。
言葉だけ借りる。
雰囲気だけ借りる。
見た目だけ借りる。
背景や文脈はかなり抜け落ちる。
こういうことがよくあります。
この Wabi Sabi も、その例の一つだと感じました。
日本でも同じことをしている
ただ、ここでアメリカだけを責めるのも少し違うと思います。
日本でも、外来語や外国文化をかなり独自解釈で使っています。
本来の意味や背景から離れて、日本独自の意味で広まった言葉や概念はたくさんあります。
ファッション用語。
食べ物の名前。
英語っぽい和製英語。
外国文化の記号化。
海外の宗教や哲学の雰囲気消費。
そう考えると、文化が外国に渡る時に変形するのは、ある程度避けられないのかもしれません。
でも、それでもやっぱり、当事者としては気になる。
この複雑な気持ちが、異文化の中で暮らす面白さでもあり、しんどさでもあります。
在米日本人として読む面白さ
外国人として暮らすと見方が変わる
日本で育ち、日本人として生きてきた人間が、外国に移住すると、いろいろなことに気づきます。
自分が外国人になる。
自分の文化が少数派になる。
日本文化が外からどう見られているかを知る。
アメリカ文化を内側から見る。
日本にいた時とは違う角度で物事を見る。
視野は狭いながらも、アメリカのことを少し客観的に見られるようになります。
これは貴重な経験です。
ダニエル・カールさん的な視点を思い出す
日本にいた時、ダニエル・カールさんのように、日本語がとても上手で、日本が好きで、日本文化を肯定しながら、時々出身国との違いも語ってくれる外国出身の方を見るのが好きでした。
外から来た人が、日本のことをどう見ているのか。
日本人が当たり前と思っていることを、どう新鮮に見ているのか。
そういう視点は面白かったです。
この Wabi Sabi は、アメリカでそれをやろうとしている本なのだと思います。
ただし、日本人から見ると、やっぱり突っ込みたい箇所が多い。
異文化を愛して紹介しようとしてくれている。
でも、浅い。
間違っているのでは。
これが広まるのはちょっと不安。
そんな感覚になります。
ビジュアルはかなり力が入っている
絵本としての見た目は魅力的
この本は、ビジュアルにかなり力が入っています。
絵本なので、内容以前に見た目の力はとても大事です。アメリカの読者には、かなり美しく、雰囲気のある本として受け止められると思います。
日本風。
静か。
やさしい。
少し禅っぽい。
詩的。
アートっぽい。
こういう雰囲気はあります。
だからこそ内容の精査が惜しい
ただ、ビジュアルに力が入っている分、余計に思います。
もう少し話の精査にエネルギーを注げなかったのか。
日本文化に詳しい人に監修してもらえなかったのか。
侘び寂びという概念を、もう少し慎重に扱えなかったのか。
絵の完成度と、文化理解の精度に凸凹があるように感じました。
子供に読む前に親が読んでほしい理由
そのまま日本文化として受け取るには注意
この本を子供に読む場合、これが「正しい侘び寂びの説明」としてそのまま入ってしまうのは少し怖いです。
もちろん、子供向けなので単純化は必要です。
でも、日本人親としては、
これはアメリカで作られた Wabi Sabi の紹介だよ。
日本でいう侘び寂びとは少し違うかもしれないよ。
と補足したくなります。
親子で異文化表象について話せる
逆に言えば、この本は親子で異文化表象について話す良い教材にもなります。
日本文化が海外でどう紹介されているか。
なぜ少し違って見えるのか。
文化は翻訳されると変わるのか。
どこまでなら許容できるのか。
誰が文化を説明するのか。
監修は必要なのか。
こうした話につなげることができます。
お子さんがある程度大きい場合は、かなり面白い会話になると思います。
長所
アメリカでの日本文化紹介の一例として面白い
アメリカで侘び寂びがどう紹介されているのかを知るには興味深い本です。
ビジュアルに力がある
絵本としての見た目は美しく、雰囲気があります。
異文化理解について考えられる
日本文化の翻訳、誤解、再解釈について親子で話すきっかけになります。
図書館で借りるには面白い
買うかどうかは別として、図書館で見つけたら読んでみる価値はあります。
短所
日本人から見るとかなりモヤる
侘び寂びの理解や扱いに、違和感があります。
猫の名前が Wabi Sabi
ここでまず引っかかる方は多いと思います。
文化監修が足りない印象
日本文化に詳しい人の確認が入っていたのか疑問に感じる部分があります。
子供にそのまま読ませるには補足が必要
日本文化を正確に伝えたい場合は、そのままにせず日本人の親の説明があった方が良いと思います。
買うのに向いている人
アメリカでの日本文化表象に興味がある方
日本文化が海外でどう紹介されているかの現状を知りたい方には面白いです。
図書館で見つけて吟味したい方
まずは買わずに図書館で読むのがおすすめです。
異文化理解を親子で話したい方
少し大きいお子さんとなら、かなり良い議論の材料になります。
日本文化紹介本を集めている方
海外で作られた日本文化紹介本として、資料的に面白いかもしれません。
向かない人
正確な侘び寂びの説明を求めている方
日本文化の正確な入門書としてはおすすめしません。
モヤモヤしたくない方
日本文化の雑な紹介に敏感な方は、かなり気になると思います。私はかなりもやりました。
小さい子にそのまま読ませたい方
補足なしで日本文化の紹介として使うには少し不安があります。
満足度
満足度は星3つです。
☆☆☆★★
ビジュアルは魅力的で、日本文化を紹介しようとする意図も伝わります。
でも、日本人としてはかなりモヤる部分があります。購入よりも、まず図書館で借りて読むのがおすすめです。
今日の英語
Wabi Sabi
侘び寂び
Japanese aesthetics
日本の美意識
imperfection
不完全さ
simplicity
簡素さ
beauty
美
culture
文化
cultural interpretation
文化の解釈
misunderstanding
誤解
adaptation
適応、翻案
authentic
本物の、本来の
This feels a little different from the Japanese meaning.
これは日本語の意味とは少し違う感じがします。
The author is trying to introduce Japanese culture.
作者は日本文化を紹介しようとしています。
まとめ
Wabi Sabi は、日本の侘び寂びという概念をアメリカの子供向けに紹介しようとした絵本です。
今回紹介した本はこちらです。

ビジュアルはとても力が入っていて、アメリカの読者には日本風で美しく、雰囲気のある絵本として受け止められると思います。作者が日本文化を愛し、紹介しようとしていることも伝わります。
ただし、日本人として読むと、かなりモヤる部分があります。特に、猫の名前が Wabi Sabi であること。侘び寂びは概念や美意識であって、ペットにつける名前としてはかなり不思議に感じます。
この本は、正確な日本文化入門として読むよりも、アメリカで日本文化がどう紹介され、どう再解釈されているかを知るための本として読むのが良いと思います。
買うのは強くおすすめしませんが、図書館で見つけたらぜひ一度読んでみてください。そして、お子さんに読む前に、親御さんだけで読んで、これはどうなのか、どこが違うのか、どこまで許容できるのか、考えてみると面白いと思います。

